新年のご挨拶

新年ご挨拶

新年、明けましておめでとうございます。
2019年の年頭に当たり、ご挨拶を申し上げます。

フィリピンでの通信事業の振り返り

当社は、2015年にフィリピンでの通信事業に本格的に参入するためInfiniVAN,Inc.(以下同社)を設立し、CATV事業者のもつ回線網を利用した、新興国向けの新たなブロードバンドサービスのビジネスモデルを構築するための準備を進めてまいりました。2017年には国家通信委員会から通信事業者としての適格を認められ、2018年には、フィリピンでの通信設備の投資に必要な資金調達を目的として、東京証券取引所マザーズ市場に上場いたしました。

また同社は、昨夏以降、フィリピンの都心部であるマカティ市で回線の敷設工事を開始し、年末には100棟のビルに、サービス開始に必要な設備を設置いたしました。今後も、長期にわたって利用できる、マニラ首都圏地域の都市を結ぶネットワーク、商業地域でのラストワンマイルのネットワークといった通信基盤の整備を継続して行います。あわせて地方ではCATV事業者と協業してブロードバンドサービスをできるよう、既存の大手キャリアとは異なる視点で、マニラとフィリピン主要都市を結ぶ中継回線を整備する予定です。小粒ではありますが、独自性をもった新興国の通信キャリアとなっていくことを目標としております。

さらに11月には、同社は、現地資本と当社を引受先とする株式を発行し、国家通信委員会が義務付けている増資を履行いたしました。法定されている同社株式の証券取引所への上場の期限を遵守できるよう上場準備をすすめております。

フィリピン市場について

フィリピンは、英語が公用語であることを活かした、海外での就労による出稼ぎによる送金収入の拡大とBPO業界が成長したことで、経済成長率は6%台後半を維持するとともに、IMF(国際通貨基金)の昨年10月の推計では、一人当たりのGDPは、3099ドルと、3000ドルを超え、経済成長を多くの国民が実感できるようになってきております。特に一人当たりGDPが3000ドルを超えると、自動車などの耐久消費財が急速に売れるなど、消費行動に大きな変化が生じるといわれております。 それに加えてインターネットの発達により、英語が公用語で英語コンテンツを容易に理解する方が多いフィリピンでは、インターネットを通じて欧米の多くの情報に簡単に触れることができ、その刺激によって消費行動が活発化するとともに、これまでの事業者の提供するサービスへの不満を、ストレートに消費行動に反映させるようになっております。こうした動きは低価格の住宅の販売、長期の自動車ローンなどいろいろなところに表れております。実際Fobes社が選ぶフィリピンの富豪(Philippines' 50 Richest 2018 Ranking)の記事によれば、第2位となったのは、2017年はベスト10に入っていなかったフィリピン最大の住宅建設業者のオーナーであり、その背景には、地価の上昇と開発案件の増大があり、住宅購買層が拡大していることが表れといえます。

英語を基軸にした経済成長と、フィリピンの方の消費行動の変化により、フィリピンの生活水準は向上していると一般的にはいえますが、ここからさらに発展するためにはフィリピンの社会資本の整備が急務であると考えております。

通信インフラストラクチャー整備について

フィリピンの現政権が推し進めているものとして、「Build, Build, Build」プログラムがあります。(https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000004.000028766.html)これは現政権の任期中に、インフラ基盤の整備のために、総額1700億米国ドルのプロジェクトを開始するというもので、日本でも報道されているマニラとその周辺での地下鉄や郊外への鉄道整備や既設幹線道路の拡張の他、マニラ首都圏地域以外での各種社会資本の整備が計画されております。英語が公用語など経済発展のポテンシャルは非常に大きいものの、国家主導での社会資本の整備が遅れていたため、地域間格差がうまらず、十分に発展することができなかったことが広く認識されるとともに、こうしたインフラ未整備による不利益が、国民に転嫁されるのは耐えられないという雰囲気になっております。フィリピンは、今外資の導入など民間資本の活用と外国からの借款を使って、社会資本の整備が図られようとしております。

そうした中でフィリピンのインターネット環境が、遅くて高いというイメージができているので、国は、前政権のときから、通信基盤を未整備の社会資本の一つとして位置づけ、国民の不満に対応するよう大手通信事業者に対して要請を重ねてきました。しかし十分な対応が行われず、現政権は、第三のキャリアを国主導で決定するというあまり例のないことを行いました。第三のキャリアが当社グループの脅威かどうかは別として、政府を動かすほど、通信基盤が未整備であるという民意が形成されていることは、日本との大きな違いであります。特にフィリピンはBPOが中心になって経済成長してきたにもかかわらず、インターネットは高くて遅く、今ではその非効率が国・地域間のBPOの競争での優位性を失わせており、通信基盤の整備は急務であります。

当社は、こうしたインフラの整備政策もあり、老朽化したインフラの置換あるいは、需要に応じた新規インフラの整備に大きなビジネスチャンスがあると考えております。昨年は、高架鉄道に光ファイバー回線を敷設してCATV事業者に提供いたしました。この回線を利用してこれまで沿線の視聴者との接続がメタル回線だったのが、光ファイバーに代わり、より高速のブロードバンドサービスを提供できるようになります。

今後も、鉄道用地などを積極的に活用して、マニラ首都圏地域内及び主要都市間の通信用の中継回線の整備を進めます。経済成長に伴い増加する通信需要に対応したインフラの整備を行い、事業者に長期でリースするサービスを拡大させていく予定です。

またインフラには、電力や通信といったものだけでなく、物流、医療、教育なども含まれ、いろいろな分野で大きな変革が期待されております。当社はノウハウ・技術を持つ日本の事業者と協業して、こうした社会資本整備の案件の開拓と事業化を進めてまいります。

ブロードバンド事業について

次にマニラのマカティ市で行っている法人向けブロードバンドサービスですが、2018年12月末には、サービス導入ができるビルが100棟を超えました。昨年7月から工事を始めたマカティでの自社回線の敷設につきましては、本年4月には、Ayala財閥が保有している都心エリアでの工事が完了し、各ビルへの引き込み工事を行う予定となっております。これにより自社で開通までのスケジュールを管理でき、サービス開始時期を早めることができます。

最近は、同社の料金やクオリティがビルのオーナーの方やインターネットの大口需要家に知られるようになり、お問い合わせが増え、受注残が積みあがってきております。

今年は、大手外資系金融機関のバックオフィス業務、ネットワーク監視、システム開発業務などが世界中から集積している、ボニファシオグローバルシティ(BGC)でのサービス開始に向けて、ネットワーク整備の準備を進める予定です。同社は、今後もマニラの拡大するブロードバンド需要を取り込むように努めて参ります。

ミンダナオ地域での事業について

さらに昨年同社が事業者適格を取得いたしましたミンダナオ地域での事業機会の収益化を、本年は積極的に開拓する予定です。ミンダナオ地域につきましては、2017年反政府組織がマラウィ市を占拠しそれを国軍が開放するという一連の流れで、多数の死傷者を出す痛ましい出来事があったり、外国人を対象とした誘拐事件の発生など、治安が安定しないイメージがあります。しかし大統領の出身地であるミンダナオ地域の中心都市ダバオはフィリピン有数の治安の良い都市とされ、また政府による積極的な投資の呼び込みもあり、国内外の資本によるミンダナオ地域への投資も進んでおります。当社は既にミンダナオ地域の3都市でCATV事業者に対してサービス提供を行って おりますが 今年は、イスラム教徒ミンダナオ自治地域(Autonomous Region in Muslim Mindanao, 略称ARMM)の中心都市を含めて、いくつかの都市での国際回線提供を開始する予定です。

この地域の中には、既存の大手通信事業者のもつネットワークが不十分で、ブロードバンド普及の土台が欠いているところもあり、フィリピン政府やCATV事業者が中心となって通信インフラの整備を進めております。当社及び同社はこうしたプロジェクトに間接的に参加することで、今後ミンダナオ地域の開発に伴う経済成長を事業の発展に取込むことができるよう努めます。

本年の抱負

当社が主力とする通信事業分野につきましては、通信技術の発達、ユーザーのライフスタイルの変化といったことにより、容易に競争環境が大きく変わる性格をもっております。従いまして時機に応じて適切に変化できるよう、今後も過大な投資は避け、高い収益性が見込まれるサービス・地域・顧客層に焦点を絞って、効率的なサービスを提供できるよう努めてまいります。

一般的には、インターネット接続サービス(ISPサービス)は、既存顧客の利用料金は頭打ちで、需要の増大が収益に結びつかない、IoTなどの新市場の開拓が不可欠とされております。しかし当社は、日本をはじめとした先進国の通信市場の常識にとらわれず、柔軟に、新興国マーケットで成功しているビジネスモデルなどを検討し、フィリピン市場にあったサービス・プロダクトを開発し提供してまいります。通信技術だけではなく、マーケティング・料金回収といった様々な領域で現地に適合したビジネスモデルを開発することが何より重要と考えております。当社は、新興国の大手通信キャリアにありがちな、市場の特性を無視した、世界的なメガキャリアの追随はせず、市場にあったサービス設計となによりも当社の圧倒的な強みである通信商材の営業要員の育成、市場開拓力の強化に磨きをかけて、フィリピンという新興国市場でさらなる成長を遂げたいと考えております。

フィリピンは、英語が公用語という優位性が却って海外への出稼ぎを招き、製造業を誘致するために社会資本整備されたことが成長の基盤となったASEAN主要国とは異なります。社会資本がこれから整備され、BPOがけん引してきた経済成長も次の展開になっていくと思われます。当社はこうしたフィリピン市場の特性に合わせたサービス展開を行ってまいります。

他の事業につきましても、ニッチな市場でのユニークなサービスの提供を行い成長していく予定です。特に昨年話題になった入国管理法の改正は、少子高齢化の流れを大きく変えることは事実上難しい中では、現実的な対応であると考えております。しかしそうした構造的問題に直面しているのは、日本だけではなく、制度改正が行われただけで海外から労働力が流入して、労働力不足が解決するような状況にはありません。当社が長年行っている介護分野の開放についていえば、優秀なフィリピンの若手介護従事者を確保するためには、日本での就労のほうが、英語のできるフィリピン人の看護学校の学生の就職先として、「看護師として英語で中近東や欧州で就労し、最後は米国の永住権を取得して永住するプロセス」よりも魅力的であることを、フィリピンで十分に認知してもらう必要があります。当社は、今回の法改正を、これまで蓄積してきたノウハウなどを活用できる機会と考えております。共生社会の実現という当社の経営目標に沿った事業展開を行うための方策を検討しております。

みなさまにおかれましては、より一層のご支援を賜りますようお願い申し上げます。

2019年1月
株式会社アイ・ピー・エス
代表取締役 宮下 幸治

株式会社アイ・ピー・エス